直接法は,営業収入一営業支出=OCFという計算式に,素直に従って算定する方法です。
間接法はちょっとひねって,会計上の利益からスタートし,調整を加えていくことでOCFを算定します。
算定結果は同じなのですが,算定過程の表示方法として,どちらが有益な情報を提供するのでしょうか。
堅苦しくいうと,利用者の目的によります。
ひょっとしたら好みの問題かも知れません。
「僕は会計が嫌いなんだ。ともかく,キャッシュがいくら入ってきて,いくら出ていったのか知りたいんだ」という方には,直接法が良いでしょう。
「私はOCFの構成要素を,利益,減価償却費,運転資本増減に分解して,それぞれの影響度を分析したい」というアタマになってしまった方には,間接法をお勧めします。
WT社の2000年度および2001年度のキャッシュフローを分析してみましょう。
直接法によるキャッシュフロー表(表2-4)と,間接法によるキャッシュフロー表(表2-5)の両方を示します。
OCF以降は,直接法も間接法も同じですので,表2-5では記載を省略しました。
2000年度のWT社は,次年度以降に向けての先行投資段階にあり, FCFは資本的支出のため5000万円のマイナスになっています。
これ自体は当然のことで特に問題ではありませんが,この投資は将来回収される必要があります。
製品販売活動を開始した2001年度において,損益計算書上は2475万円の純利益を計上することができ,順調なスタートのように見えます。
しかしキャッシュフローの観点からは, OCFの段階で635万円のマイナスになっています。
これは営業活動開始によって,運転資本投資額が発生した影響です。
よって投資資金の回収は2002年度以降に持ち越されています。
WT社が,検査測定機器事業は今後も成長し投資が必要と判断すれば,新製品開発のための先行投資を行いFCFをマイナスにしても問題ないでしょう。
しかし,この事業が成熟段階に入ってきたら, WT社は, FCFをプラスにして投資回収を図っていく必要があります。
キャッシュフローをベースにした指標には,金額で測定されるものと,レートで測定されるものに大きく区分されます。
また,何か特定の投資を行うに当たって,社内でその採算性評価を行う(別の言葉でフィージビリティ・スタディともいいます)ために使う場合と,企業や事業の価値算出に使う場合があります。
この指標の種類と使用目的で分類すると,図3-1のようになります。
また,金額とレート以外に,初期投資の投資金額であるキャッシュアウトを今後何年間で回収できるかといった,期間による指標もあります。
第1章で,投資は将来その元本と要求される利回り(金利),つまり元利合計が現金で手元に戻ってきて初めて成功したといえると述べました6まさにそのために,投資採算を評価する時もキャッシュフローを使います。
まず,投資を検討する時は,必ずなにか今と違う結果が生まれることを期待します。
設備に投資すれば,今より人間の労働が減少し,労務費が削減されることも一つです。
また研究開発投資という,一つひとつの投資対象物件に比べると大きな概念となるものでは,開発された新製品による企業への売上増の効果を期待します。
投資採算を評価する指標には,NPV(Net Present Value = 正味現在価値), IRR (Internal Rate of Return=内部収益率),回収期間(英語ではペイバック・ピリオド)の3つがあります。
NPVは,将来のリターン(キャッシュフローの増加額)と投資金額との関係を表します。
IRRは,投資とリターンの関係を表す利回りです。
そして,回収期間は,初期投資の回収に要する期間です。
これら3つの指標の計算の出発点は,投資対象物件であればその寿命,研究開発であれば新製品の寿命であるこの先何年間かの期間におけるフリー・キャッシュフローを予測することです。
投資の効果(ベネフイット)がキャッシュの入りとして,今後毎年どのようになるかを予測します。
この予測では,該当する投資によって発生するベネフイットと,追加的に発生するキャッシュアウトを算出します。
例えば,新製品開発投資によって売上増になれば,在庫や売掛金が増え,キャッシュアウトとなります。
寿命である期間を通しての予測は,社内の専門家を交えて行うことで,より精度の高い予測が可能となります。
この専門家とは,営業,製造,物流部門の方々です。
また,寿命の最後に残存価値があれば,それも見積もります。
例えば,設備を転売できればその金額と税金,運転資本が残っていてそれが売却や回収できればその金額といったものを計算します。
これにより,すべてのキャッシュフローが求められます。
各年度のフリーキャッシュフローを資本コストレートで割り引き合計したものを,現在価値といいます。
この現在価値から,初期投資を差し引いたものが,正味現在価値です。
英語では, Net Present Value といい,略してNPVといいます。
第1章や第II章でも少し触れましたが,資本コストについてちょっと詳しく説明します。
企業の資本コストは,下記の3つの要因かち構成されます。
使用総資本を構成する負債と株主資本のコストレートをそれぞれのウェイトで加重平均したものが,資本コストになり,これをWACCと呼びます(図3-2)。
加重平均つまり, Weigted Averageのベースは,有利子負債と株主資本の金額での比率ですが,理論的にはマーケットバリュー(市場価格や時価)での比率を用いるのが正しいとされています。
なぜなら,投資家の期待はマーケットバリューに対して発生するためです。
身近な例では,配当があります。
過去,日本企業は額面主義で配当を払うという傾向がありました。
例えば,額面50円に対して年間10円の配当を支払えば,リターンは20%と高いように見えますが,その株式が市場で500円で取引されていれば9 %のリターンにしかすぎません。
投資家が500円で購入したら,これをベースにしたリターンを期待します。
昨今,配当額決定を額面主義から脱して,時価をベースに決定するよう世論が変わってきています。
株主資本のウェイトとしては,上場企業であればまさに,時価が存在します。
つまり,現在その会社の株式が市場でいくらの値が付けられているかが,分かります。
この株価に発行済み株式数をかけたものが,ウェイト算出のベース(金額)になります。
しかし,負債はそう簡単にはいきません。
株式にリンクしたような負債は,市場価格を用いればよいのですが,そうでない有利子負債は,元利の支払約束金額を負債のリスクに応じた割引レートで割り引いて,現在価値を求めるといったことをします。
そもそも現在価値を求めるための資本コストを計算するために,現在価値を求める,またこれが企業価値の評価であれば,市場価格を求めるための資本コストを計算するために市場価格を求めるということになり,循環してしまいます。
実際には,先ほどの方法で求めた,それぞれの資本の現在価値をベースに,将来のターゲットとなるウェイト(資本構成)をマネジメントで決定します。
この時,類似会社や競争会社等の資本構成を参考にします。
プライスウォーターハウスが実施した調査報告書「日本における株主価値分析手法と資本コストに関する利用状況の調査」(1998年1月19日から30日にかけて調査したもので, 32社の証券会社,投資顧問,生命保険会社から回答)によると, 27%の調査対象金融機関は,WACCの算出に簿価ベースの負債と株主資本の加重平均を使っています。
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